演奏解釈

 

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楽曲分析と演奏解釈 〜「悲愴」「風紋」を例として〜 (保科 洋 著)

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3. 演奏解釈 

演奏解釈を要約すれば、楽曲分析によって整理した各グループとその重心を全曲的見地から比較検討して、それぞれをフレーズごとにランク付けすることといえます。具体的には各重心にかかるエネルギーの大きさ及び音楽的比重の比較検討です。したがってこれからは旋律だけでなくすべてのパートが検討の対象になります。 

なお、フレーズやグループを演奏する際には、重心に先行する音群はクレッシェンドで、後続の音群はディミニュエンドで表現するのが基本的な方法です。ただし各グループはその接点でハッキリ分かれるように演奏するのではなく、むしろフレーズ内で音楽の流れが切れ過ぎないように複合グループ化して、隣接するグループの接点の音は両方のグループに所属するように表現する場合の方が多いようです(譜例11で実線カッコが重複している箇所)。 

この様相は山並みを縦走する状態に似ています。つまり一山ごとに平地へ降りるのではなく山から山へ渡り歩くのです。しかもペース(テンポ)を維持して登りや下りを歩くためには同じ距離でも全く異なるエネルギーの使い方が必要なこともフレーズ表現と酷似していないでしょうか。 

以上をふまえて早速「悲愴」交響曲・第一楽章・第2主題の演奏解釈を始めましょう。 


グループ(1)と(2)の比較 

グループ(1)と(2)の表情は指定された強弱記号や<>によっても明瞭に感じ取れますが、前述のようにこれらの記号類は元来補助的なもので本質的なエネルギーの抑揚は音符の推移によって描かれているのです。 

ちなみに音符以外の指示記号を見てみましょう。グループ(1)と(2)は指示記号が全く同じですので(注)、抑揚の中味も同じと思われがちですが、音の高さと和音が微妙に違うのでその内容は決して同じにはなりません。

 (注) 5小節の<は前述のように後続グループへ繋げるための意図的な指示ですからこの際考慮外にします。

ところがそのような微妙な違いを的確に指示する記号はないのです! 強弱記号は相対的な量は記せても質までは記せません。また記号<>に至っては量も質も記すことは出来ません! 

もしも仮に記せたとすると、変幻無限な音楽的表情の微妙な違いに対応させるために記号の種類は膨大な数が必要になってしまうでしょう。そのような記号の海に埋まった楽譜は煩雑になるだけでなく演奏者の主体的な表現意欲を妨げることになりかねません。 

score12.png

例えば中段3小節目のシンコペーションのリズム(「バウンド分割」です)に注目してください。これは(1)のエネルギーが重心から減衰して行くなかで、最後に残ったエネルギーがあたかも水面に広がる波紋のように静かに消えて行くさまを見事に描いている箇所です。このリズムが旋律のA音ではなく内声のホルンに与えられているのもこの部分の内向的な収束感を的確に表現しています(しかも(1)の中でここだけです!)。 

このような繊細なニュアンスは記号で表せる限界を超えているとは思われませんか?  

また、バロック音楽のように音符以外の指示記号が極端に少ない作品(楽譜)でも、繊細な強弱法や音楽的な表情に満ちあふれた演奏が数多く存在しているという歴史的事実があります。これらのことは、音符だけでも十分に、いや音符の方がより繊細に音のエネルギーが推移して行く際の微妙なニュアンスを伝えられることを証明していると考えられないでしょうか!! 

以上のことは楽譜の読み方の基本ですので、譜例で具体的に説明しましょう。 

グループ(1)では下降する音域が8度(オクターブ)でしたが(2)では10度に広がっています! この違いはジェットコースターが落下する際にその距離が大きいほど加速も大きくなるように、音が下降して行く際のクレッシェンドの中味が違うことを意味しています。さらに、最下点から重心まで登る距離は同じ6度ですが、重心の音の高さが(1)と(2)では異なっておりその和音も違います。ここで指揮者は判断を迫られます。 

イ)グループ(1)と(2)では抑揚はどちらが大きいのか?  

ロ)またニユアンスはどのように違うのか?  

ハ)そしてそれらの根拠は? (前述のように音が違うので音楽的に同じではあり得ません)。 

これについては実は解釈に個人差が生じるのです。ですから同じ「悲愴」でも多種多様な名演奏が存在するのです。しかしそれでは話が終わってしまうので、ご参考までに私の解釈をご披露しましょう。 

(1)と(2)については前述の音域の違いもさることながら、(1)の重心を支えている減七の和音がもたらす内的な焦燥感ともいえるニュアンスと、(2)の重心に付けられた属九の和音(旋律のH音を倚音と解釈することも出来ます)の厚みのある響きに注目したいと私は思います。この違いを表現するために、具体的には(1)の<>は量的な表現よりも内面的・音色的な表現を心がけ、(2)の<>は下降する音域の広さも勘案してより幅の広い量的な響きを目指すのが適切であると考えます。 

  以上を勘案して<>の幅は(2)の方が大きくなるように表現したいというのが私の解釈です。

 

... 続きは、会場でご覧下さい!


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