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楽曲分析と演奏解釈 〜「悲愴」「風紋」を例として〜 (保科 洋 著)
2. 楽曲分析
それでは実際に楽曲分析をしてみましょう。例として「悲愴」交響曲の第一楽章第2主題を取り上げます。楽曲分析とは それを活用する目的によって視点を変えるべきですが、今回は演奏するための楽曲分析という立場で分析することにします。
文章で説明すると非常に理屈っぽくそして冗長になってしまいますが、実は演奏するための楽曲分析とは、フレーズをグルーピングして、グループ内の抑揚と重心を音符と指示記号から読み取ることなのです。つまりフレーズというセンテンスの内容を理解するための単語の整理整頓です。
前述のようにグループとはフレーズ(音の山並み)を形成している個々の山々に相当するものですが、文章と違ってグループとは固定されている訳ではなく常に流動的です。またグループはしばしば複数個が緩やかに繋がって複合グループを形成しますが、自然発生的にせよ人為的にせよ、聴き手はエネルギーの抑揚、特に重心からエネルギーが減衰して行くさまを感じ取るとグループが一旦完結したものとして認識するので、一見単独のグループに思われるものでも、内部に複数の抑揚が存在すると解釈した場合には、それは複数の抑揚を含む複合グループとして整理すべきです。
以上をふまえてこのフレーズ(第2主題)の内部構造をグルーピングしてみましょう。
フレーズ=二重線カッコ、グループ=実線カッコ、複合グループ=点線カッコ、↓=各グループの重心
グループ(3)に↓が2カ所あるのは重心が↓から↓まで時間的に広がっていることを意味します(重心の項参照)。
グループ(1)
最初ですので詳しく解説しましょう。先ずこのグループの重心は前掲条件の(イ)(ニ)(ト)と(ヘ)の応用に該当する2小節3拍目のD音と考えるのが妥当です。
あたかも停止していた物体が静かに下降していくように、Fis音から8分音符で滑り落ちるように動きだしたジェットコースター音型の旋律は、次第に加速を伴って勢いを増し、その反動で2小節3拍目のD音まで抛り上げられた後に、徐々に減衰して最後のA音(グループが終わることを伝える長い音)で収まる、という様相を音符の高さと長さの推移で見事に表現しています。スタートから2小節3拍目のD音まではジェットコースター音型ですので、仮に2小節1~2拍の<が指定されていなければ2~3拍目は>する方が自然です。しかし作曲者は3拍目のD音が重心であることを演奏者に明確に伝えるために意識的にここに<を指定したと考えられます。つまりここの<は重心の位置を変更するための意図的な指示なのです。
ところで歴代の作曲家の作品をつぶさに調べると、実は音符の変動が示唆する微妙な抑揚は必ずしも指示していないことに気付きます。それは、作曲家はそのような微妙な抑揚は音符の推移が十分に伝えてくれることを信じているからではないでしょうか。あえて指示するとむしろオーバーな表情になってしまうことを怖れているからではないでしょうか。
つまり、<>をはじめとするさまざまな指示記号、指示用語などは(作曲者の意図を端的に表したものであることは申すまでもありませんが)単に表面的な意味に留まらず、周りの状況によってニュアンスは微妙に異なるのです。それらを大別すると以下の5通りになります。
イ)音符だけでは的確に表現し得ない音楽的内容を記したもの
ロ)音符だけでは複数の解釈が可能な場合、作曲者の意図を明確に伝えるために指示したもの
ハ)音符で表現している内容を、より強調する目的で記したもの
ニ)音符から常識的に感じ取れる内容と全く異なる表情を意図的に指示したもの
ホ)音符から常識的に感じ取れる内容を確認するために記したもの
楽曲分析によってグループ内の抑揚を整理・設定したとき、作曲家が指示した記号類の意味と異なった結論に至ることがままあります。このような場合、基本的には作曲家の意思を尊重してその指示に従うべきでしょうが、単に盲目的に従うのではなく上記のいずれに基づいた指示であるかを分析結果から判断し、指示記号の真の音楽的意味を理解するように心がけるべきでしょう。例えばグループ(1)2小節目の<は上記(ロ)に該当する指示と考えられます。
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楽曲分析と演奏解釈 〜「悲愴」「風紋」を例として〜 (保科 洋 著)
