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楽曲分析と演奏解釈 〜「悲愴」「風紋」を例として〜 (保科 洋 著)
作曲者からのお願い・・・楽譜から読み取ってほしいこと
以上、長々と理屈っぽい文章を連ねてしまいました。本来音楽は音で表現するものですから、書きながらも解説すればするほど本質から遠ざかってしまうようなもどかしさを否めませんでした。と言いつつ、屋上屋根を重ねるのは本意ではありませんが、最後に作曲家の立場から、楽譜という手紙をどのように読み取って欲しいかという願いを少しだけご披露させてください。
題材は本日演奏する「風紋」です。
1)「繰り返し」とそのコントラスト
作曲家は伝えたい音楽を楽譜に書いていますが、当然のことですが本当に伝えたいのは「音による音楽」です。ところで、音は発するそばから消えていってしまうものです。このような音を素材として聴き手に作者の意図を伝えなければならない音楽では、伝えたい内容を「繰り返し」て聴かせる ことによって目的を達成させているのです(注)。
(注)あらゆる音楽形式に共通する要素は「繰り返し」です。繰り返しという概念を含まない音楽はありません(一部の実験的な前衛音楽は除きます)。ソナタやロンドなどさまざまな形式の違いとは繰り返し方の違いであると受け止めれば分かりやすいでしょう。
ただし、単純に繰り返すのではなく聴き手を飽きさせないように、更には聴き手に感動を与えられるように繰り返し方を研究し試行錯誤しています。その工夫の中で最も重要なタームがコントラストです。基本的にはフレーズやグループにさまざまな変形を加えて繰り返し、それらの違いを通して作意を伝えるという方法です。例をお見せしましょう。
譜例14は「風紋」のテーマですが、最初に提示された上段と2度目に再現された下段では3小節目の最後の音が違います! 僅か1音の高さがたった2度違うだけなのですが、私にとってこの違いはテーマの心臓のように重要な意味を持っています。なぜならば、この違いがもたらす表情は後続する旋律の流れを変えさせるほどの大きなコントラストの効果を生み出しているからです。それは、1回目ではB音にしか上がれなかった勢いなのでそのまま減衰して旋律を下降させているのに比べて、2回目はC音まで抛り上げられるほど勢いが大きいので旋律を更に上昇させられるからです。私としては旋律に潜在するこのような内的エネルギーの違いを、この1音を書き分けることで伝えたかったのです。遡ってこのことは3小節1〜2拍に指示した<の中味が違うことも暗示しています(<>などは量も質も表せないことを思い出してください)! そして他の部分の指示記号類の微妙な使い分けも、1回目と2回目のエネルギーの勢い・様相などの違いを理解してもらうための補助として指示したもので、これらはすべて上記1音の違いとそのコントラストがもたらす効果を源とした因果関係にあるのです。
他の作品にも言えることですが、繰り返されたフレーズやグループの僅かな変化とそのコントラストこそが作曲者の真意を知るためのこの上なく大きなヒントなのです(注)!
(注)前掲「悲愴」にも随所に変形された繰り返しがありました。もう一度そのコントラストの効果を実感してみてください。
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楽曲分析と演奏解釈 〜「悲愴」「風紋」を例として〜 (保科 洋 著)
